爺ちゃんは今

爺ちゃんが入院してちょうど1週間がたった。外まわりから戻ったマロンは今朝も爺ちゃんの部屋の前でニャーニャーと泣き叫ぶ。一昨日までは、「爺ちゃんはいないよ」と、下からばあちゃんが大声で言うまでは泣いていたけれど、今朝はあっさりと泣きやんで3階に上がっていった。3階の婆さんの部屋には、LAから来た娘がまだ寝ている。その布団にもぐりこんだのだ。
 先週の月曜の夜、家に入るなり、爺さんは身体の不調を訴えた。胸苦しく、しんどい、とという。車を降りて、どうしようかと思ったと言う。爺さんは日曜の昼前、鳥取方面に行くと言って車で出かけたのだ。火曜日から入院して、15日には大きな手術を受けることになっていた。手術の結果次第では入院が長引くかもしれないと、今のうちに行っておこうと考えたのだろう。青森、広島、そして鳥取。手術の必要な身体で無謀ではないか、と婆さんは少しばかり諌めはしたけど、じゃあ一緒に行ってあげましょうとは言わなかった。というのも、爺さんの行き先は婆さんにとっては、思い出したくない所だったから。
しんどい、しんどい、と爺さんがしきりに言うので、婆さんは悪い予感がした。
「今から病院に行こうか、」と婆さんは電話に手を伸ばした。爺さんは、「こんな時間に先生がいるか、」という。
「救急車は24時間走っているし、この前行った時、先生は夜中の3時までいますって言ってたでしょ。」
「誰や、なんていう先生や」
「N先生だったかな~」
先生の名前までは婆さんの記憶になかった。
「そんな名前の先生じゃなかった。いいかげんなこというな。お前は、いいかげんなやっちゃ!!」
しんどいという割には、爺さんの声は大きく勢いがあった。爺さんが婆さんに言うことは昔からきまっている。婆さんの耳にタコができているくらいだ。むかついたので、「勝手にすれば」と、まけずにきつく言ってやった。階段も登れないくらいしんどいと言っていた爺さんは、すたすたと階段を上ってベッドに横になった。少しばかり気になったので、婆さんが寝る前にそっと爺さんの部屋をのぞいてみると、ベッドのまわりに2,3個の電気スタンドを煌々とつけ、枕元の小型TVをつけっぱなして、見ているのか、いないのか、おとなしく寝ていた。
朝、娘が出勤したすぐあと、爺さんは珍しく早く起きてきて、
「ゆうべはしんどうて眠れんかった。今すぐ病院につれていけ」と言った。
京都桂病院は西山の麓にある。9号線千代原口五叉路を曲がって急な坂道を登りつめたところだ。車で行くのは気が進まない。車を走らせてすぐに、爺さんは婆さんの運転に文句をつけた。いつものことなので、聞かないふりして、慎重に運転して病院にたどりついた。外来の窓口をとおさずに診察室に直接行き、身体の状況を話すと、すぐに診察をしてくれた。丁度入院の時間にもなっていたのだった。診察が始まって10分もたたないうちに、先生が来て、今からカテーテル手術を行うと言われた。心筋梗塞を起こしていて、すぐに処置しなければいけないのだという。さらに、発作がおきてからだいぶ時間が経過しているので状況が悪いと言われた。昨日の内に来なければいけなかったのだ。
手術は10時から始まって16時ちかくまでかかった。今度の病院は手術室の様子が皆目わからない。面談室から動かず待っているように言われた婆さんは昼ごはんも食べられず、お茶1本でじーっと、待った。8月の手術の時がちらちらと蘇る。今度は駄目かもしれない・・・、お葬式をどうしよう・・・、いろいろなことが思われて6時間は瞬く間に過ぎていった。
手術が終わって、集中治療室に入ると、爺さんは顔色もよく、目をしっかりあけて元気だった。
担当医の話によると、8月に入れたステントの上部が梗塞して、しかも時間がたっていたので、硬くなっていたとのこと。その分カテーテルが通りにくくて時間がかかってしまったのだった。さらに、心臓の下部の機能が弱ってしまい、心筋梗塞を起こす前を10とするなら、今は5しかないという。それは今後もう回復しないのだと言われた。血圧も下がり、予定のバイパス手術はしばらく見合わせることになった。これから1週間、心臓の働きを補助する機械を入れているし、心臓に穴があいたり、心不全を起こす危険があるという。
昨日の午後、爺さんはめでたく集中治療室をでて、一般病室に移った。集中治療室では、今まで見たこともないほど大人しく神妙だったのが嘘のように元に戻っている。身体の中は元に戻らないというのに。それを承知の上で、婆さんはなんだか自分が馬鹿みたいだと、またしても思うのだった。爺さんは病院内を歩くリハビリをして、間もなく退院することになりそう。バイパス手術まで自宅待機らしい。それもちょっと~・・・である。

手術前の爺さんとマロン

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by babamama_123 | 2009-12-15 11:47 | 日々の記録 | Comments(0)