病棟の春ー3

気がつくと、集中治療室に寝かされていた。ベッドの周りは蛍光灯の明かりに照らされて夜の部屋のようだった。夫と娘の顔が近づいて、遠くなった。二人がいたらしいというこしか思い出せない。翌日、集中治療室から個室に移された。差額ベッド料1万円の部屋で、集中治療室の後1,2日は患者の希望にかかわらず、個室に入るのが病院の決まりだった。
 個室はトイレ、シャワー付きのゆったりした広さだった。一般病室と同じ5階ときいたけれど、どのあたりの部屋かわからない。部屋は明るいけれど、窓ガラスは曇りガラスで外は見えない。静かだった。
夜半、強い風と、雨音を聞いた。夜、一人きりの部屋で聞く風音は不気味だった。この風で、花は全部散ってしまっただろう。そして、この数年の間に散ってしまった人達のことを思い出して、寂しく、暗い気持ちになった。
 三月前の冬、夫の親しくしていた同級生が亡くなった。春先に叔父が亡くなった。二人とも癌だった。5年前くらいから、夫の友人、知人が癌で次々になくなっていた。自分もそうなるのだろうか。入院する前に、身辺整理をおもいたったが、あまりの煩雑さに、何もしないできたことが悔やまれた。遺書のようなものも書いておくべきだった。
 翌朝は気分よく目が覚めた。雨はあがったらしい。38度の熱にもかかわらず、気分がとてもいいのだった。昨夜は何を恐れていたのだろう。この先それほど長くはないだろうけれど、今日、明日死ぬ気配もない。癌が再発したとしても、長くは続かないだろう。痛みは必ず終わる・・。考えたところでどうなるものでもない。そんなことより、いつまで、この部屋に寝かされるのだろうと、差額ベッド料の額を思ってあせった。

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by babamama_123 | 2010-06-11 11:49 | かく | Comments(0)