病棟の春ー4

個室3日目の朝、昨日飲んだ解熱剤が効いてほぼ平熱に戻った。検温に来た看護師にあとどのくらい個室に居るのか聞くと、すぐに一般ベッドを探してくれた。昼過ぎ、大部屋にうつることが決まり、案内されて移動した。そこは、手術前にいた部屋で、しかも同じ場所だった。TさんもHさんもいた。4人部屋は私が入ると満室になった。
 一夜あけて窓の外を見ると、病棟の側の桜は、白く咲いていた。雨に洗われて濁りのない白さだった。遠くの桜の並木はピンクの色が濃くなった。しだれ桜ではなく八重咲きの桜かもしれない。曇り空の下で、桜も西山も、病院も、静かだった。私はしばらく外を眺めていた。おもうことは何もなかった。自分の気持ちも今までなかったほど静かだった。
 幾つの年も、春は私にとって、あわただしく、騒々しかった。京都に来て、街全体が桜色に染まるころは、それが反って気持ちを荒立たせることもあった。さらに、ずっと昔は、桜を見ると、入試の失敗で、私の春は鉛色だった。
 じっと眺めていると、いつになく時間の流れがゆるやかなように思えた。
 すっかり明るくなって、病棟の一日が始まった。検温、回診、配膳、と看護師の足音、台車の転がる音が廊下や病室にあふれた。窓の外の駐車場は外来に来た人の車で、埋まり始めた。
 私の食事はまだ始まっていない。みんなの朝食の時間が過ぎるころ、有料のTVを少し観て、持ち込んだ短編推理小説の字面を追って、半分とろっと眠っていた。

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by babamama_123 | 2010-06-13 11:38 | かく | Comments(0)